「子どもは嘘をつくもの」
そうはわかっていても、わが子の嘘は気になるもの。
どうして嘘をつくの? 誰かの影響? ひょっとして生まれつき嘘つきなの?
「嘘をつくことは悪いこと」だとわかっているからこそ、子どもが嘘をついていると
不安になる。
「子どもの嘘」と「親の嘘」の深い関係
「正直さ」を求めてもきりがない
自分が子どもだったときを思い出して、「友だちに自慢したくて、つい嘘ついちゃったな」「すごいと思われたくて大げさに言ったこともある」
と反省したことがある人も多いのではないだろうか。
また、親に叱られたくないばかりに、宿題をやっていないのに「もう終わった」と言ったり、テストの点数が悪かったときに「まだ返してもらっていない」とごまかしたりなど、一度も嘘をついたことがない人なんていないはず。
それなのに、わが子が嘘をついているのに気づくと、
「うちの子が嘘をつくなんて信じられない!」
「どこかで悪い影響を受けて嘘つきになったのかも……」
などと、過剰に心配したり不安になったりしていないか。
子どもは嘘をつくもの。さらに言うと、大人だって嘘をつくことはある。
ですから、人を傷つけるような深刻な嘘でない限り、あまり神経質にとらえる必要はない。
ある臨床心理士の方は、子どもが嘘をつく原因として次の3つを挙げている。
①事実と空想の区別がつかない
心理的発達が未熟な幼い子どもは、空想や願望を本当のことのように話す。もちろん本人には、嘘をついているという自覚はない。
②かまってほしい
痛くもないのに「お腹が痛い」と言ったり、学校での出来事を実際より大げさに表現したりと、親にかまってほしいから嘘をつく子も。
原因は親子のスキンシップ不足にあるという。
③自分の身を守りたい
自分の失敗を「○◯くんのせいでこうなった」と友だちのせいにしたり、まだやっていないのに「宿題はやったよ」と言ったりするのは、親に叱られたくないから。
親としては、子どもに「嘘はダメ」「正直でなければいけない」と教えるべきだが、一方で親自身が子どもの前で矛盾した態度をとってしまうことも。
その結果、子どもの「嘘」がますます加速するという驚きの調査結果もあるようだ。
「子どもの嘘」ひょっとして原因は「親の嘘」?
ある心理学研究者らは、18〜28歳の若者379人に対して「嘘」にまつわる調査を実施した。その内容は次のとおり。
まず、調査対象者に「子どものころに親にどんな嘘をつかれたか」を聞く。
たとえば、なにかをおねだりしたときに「今日はお金を持ってきていないからまた今度ね」と言われたことや、言うことを聞かなかったときに「いい子にしないとおまわりさんを呼ぶよ!」「早く来ないと置いていっちゃうよ!」などと言われたことなど、さまざまなパターンの嘘を例に挙げて、「親に嘘をつかれたことがあるかどうか」を聞き出した。
そして次に、「大人になった今の自分は親にどのくらい嘘をついているか」をたずねたところ、子どものころに親が多く嘘を言っていた人ほど、大人になった現在、親に対して嘘をつく傾向が高いということが明らかになった。
さらには、攻撃的で規則を破りやすいなど、社会的に好ましくない問題を抱えるリスクも高まると判明した。
調査を行なった准教授は、「親が子どもに『正直でいることが一番』と教えているにもかかわらず、嘘をついて正直でないところを見せてしまうと、子どもに矛盾したメッセージを送ることになる」と指摘したうえで、結果として子どもの正直さを欠いてしまうことにつながったのではと結論づけている。
親がつく嘘=「ダブルバインド」
もちろん親は、悪意をもって子どもに嘘をつくことはない。
親が子どもに対して嘘をつくときは、「良かれと思って」「しつけのためにしょうがなく」などと、子どものためを思うがゆえに仕方がない場合が多いのではないだろうか。
しかし、ある心理学者は「親が良かれと思ってつく嘘であっても、子どもの正直さに影響を及ぼします」と忠告する。
悪気があるかないかの判断は子どもには難しく、親の言葉をそのまま素直に受け取ってしまうからこそ、軽い気持ちで嘘をつくことには気をつけなければならない。
親がつい言ってしまうのは、「おもちゃを片づけないなら全部捨てちゃうからね!」「今度またいたずらしたら、もううちの子じゃないよ!」「好き嫌いばかりするなら、もうごはん作ってあげないからね!」など、決して実行に移さない非現実的な内容なのではないだろうか。
これはすなわち “嘘” であり、「ダブルバインド」とも呼ばれる。
「ダブルバインド」とは、相反するメッセージの間で板挟みになった相手が、最終的には従わざるをえなくなるコミュニケーションパターンのこと。親は無意識ではあるものの、ダブルバインドによるしつけは、子どもを脅して言うことを聞かせているのと同じ。ダブルバインドを頻繁に行なうようになると、子どもは次第に「お母さんは嘘を言っている」「お父さんは口ではこう言うけど、結局いつも実行しない」と、親を信用しなくなる。
「嘘をつく」以外の解決策を用意する
すべての発言に嘘がなく、つねに正直であることは難しい。しかし、親が子どもに向けた言葉は、思っている以上に子どもの人格形成に大きな影響を及ぼす。だからこそ、子どもの前では「自分の言葉に正直であること」「自分の発言に責任をもつこと」を心がけるようにしよう。そうすることで、子どもは大人のまねをして自ずと正直になっていく。
先述の准教授は、「嘘をつく」以外の方法を考えるべきだと説く。
たとえば、子どもの感情に寄り添って理解を示す、問題を一緒に解決する、情報を提供する、選択肢を与える……。子どもに言うことを聞かせるためにつく嘘のほとんどは、それ以外の解決法がある。
お菓子を買ってと言って聞かない子どもに対して、面倒になって「このお店はお菓子置いてないよ」「売り切れだって」と軽い嘘をついてしまうこともある。
その場ではその嘘で乗り切れたとしても、ごまかしただけで何の解決にもならない。
それよりも、「今度の日曜日にお父さんと一緒に買いに行こう」「おうちにまだ食べていないお菓子が残っているよ」と、嘘をつかずに子どもを納得させられる言い方がないか考えてみよう。
子どもがまだ小さいからといって、嘘をついてごまかし続けていると、いずれ大きくなったときにネガティブな影響が表面化することもある。
子どもに「正直さ」を求めるのなら、まずは親がお手本を見せてあげよう。
今年もよろしくお願いします。