料理のお手伝いは「やりとげる力」を育てる
「どうすればいいのか」を自分で考えられるようになったら、あとはそれをどんどん
実行させるのみ。
脳科学の見地から、この「実行力」は3つの要素から構成されていると言われてい
る。
①効率よく情報をインプットし、必要なときにそれをピックアップする「作業記憶」
②状況に応じて情報を使いわけ、他の方法を探す「認知的柔軟性」
③目標達成のために優先順位をつけ、衝動的な行動を抑える「自己制御」
実行力の有無はこうした脳を使い方ができるかどうかにかかっていて、決して生まれ
つきのものではない。
要は訓練であるから「うちの子は積極的なタイプではないし……」など、引け目を感
じる必要はまったくないということを科学が証明している。
この3つの要素を育むために私が実践したのが、娘、息子に料理のお手伝いをさせる
ことだった。考えながら動き、ときには我慢もする。
この一連の流れを習得させるためには、料理のお手伝いが身近にあるベストの方法だ
ったから。
大切なことは、教えるのではなく見本を見せること。だから、我が家では夕飯を作る
時に私や妻がやりながら、その手順と理由を説明した。夕飯は毎日食べるものだから、
この手順と理由が繰り返される。そのうち子どもは自然と考えを行動に移し、結果を出
す作業の流れを覚えていく。
そして、その過程で「今日は疲れているから夕飯をつくりたくないけど、お母さんが
やらないとみんなお腹すくもんな」と言って、我慢するというコンセプトを教えて一緒
に乗り越える経験もさせる。
また、子どものお手伝いとして小学校にあがってからは日曜日の朝ごはんを担当して
もらった。
「お手伝い」と言っても、おつかいに行ってもらうだけとか、野菜を包丁で切っても
らうだけとかいうことではない。親が決めるのは、「予算」だけ。
メニューを決め予算内で食材を調達し、時間内においしい料理をつくりあげるという
ところまで、すべてを子どもに任せてしまう。
娘も、最初は火や包丁が使えなかったので手でちぎったレタスの芯をむしっていちご
と一緒に盛り付けたサラダなんていうメニューだったし、お買い物は妻が付き添った。
それでもそこには、実行力のすべてが詰まっている。
もちろん、やり遂げた時の満足感もある。 そうやって回数を重ねて、年齢とともに任
せる範囲を広げていってほしい。
「朝ごはんをつくる」という大きな目標に対して、「つくるのには○時間くらいかかり
そうだ」「そうしたら、何時までに買いものに行かなくちゃ」という小さな課題をクリ
アしていかなければならない。
また、予算も時間も限られているので、目標達成のために工夫したり我慢したりする
ことも必要。
実行力の3つの要素を、見事に網羅していると思わないだろうか?
大切なのは、下手だから、できないからといって親がやり直してはいけないというこ
と。これでは、本末転倒だ。
実行力を鍛える過程で「どうしたらいいだろう?」と悩んだときに最適な答えを出す
には、論理的に考える力である「クリティカルシンキング力」も大事な要素だ。
この力がなければ、感情に走って正しく判断できなかったり、壁にぶつかった時点で
自信を失い、目標達成をあきらめてしまったりしかねない。
それでは実行力は発揮されない。クリティカルシンキング力を育てるのに有効なの
が、ひとつの課題に対して3つの解決法を考え、それぞれについてよい点と悪い点を挙
げる「Pros(よい点)&Cons(悪い点)」という方法である。
子どもが「どうしたらいい?」と聞いてきたら、
「どんな方法があると思う? 他にも方法はある? この方法のどんなところがいい(悪
い)と思った?」と聞き返す。(私は、必殺おうむ返しと呼んでいる)
論理的に決めたことなら自信を持って実行することができますし、感情に左右されま
せんから気持ちがブレることもない。
大事なのは、ただよい点と悪い点を挙げるだけでなく、両者をしっかりと分析すること。
クリティカルシンキング力が育っていないうちは、
「お父さんがこう言っていたから」「友人の○○ちゃんがしていたから」などという理
由を挙げてくるかも知れない。そのような時は、「本当にその方法がベストなの?」と
投げかけて、もっと深く考えさせる。その繰り返しこそが、自ら考えて適切な行動をと
れる子どもを育てていく。
考えながら目標を設定し、それに向かって動いてはまた考える。このサイクルは、一
般のビジネスでよく使われる「PDCA理論」にも通じるものがある。
暖かいようですね。良い日曜日を大切な人と。
また明日。