「あずぶろ。」

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「ウェルビーイング」2023年元日記念号。

ウェルビーイング」2023年元日記念号。

 

2022年は、皆さんにとってどんな1年だっただろうか。

教育関連の動向を思い起こしてみると、キーワードの1つは「ウェルビーイング」なのではないかと思う。

ウェルビーイングというのは、身体的・精神的・社会的によい状態を指す。

幸せや幸福と訳されるときもあるが、もう少し広い概念だ。

現在、文部科学省中央教育審議会では教育振興基本計画という国の教育政策の根幹となる次期計画を検討しているが、直近の素案では、子どもたちと社会のウェルビーイングがキーコンセプトになっている。

 

子どものウェルビーイングは高いか?

最近の大きなニュースの1つは、こども基本法が6月に成立したことだ。従前も子どもの権利条約で求められてきたことではあるが、改めて国内法としても整備されたものだ。簡単にまとめると、

 

・つねにこどもの最善の利益を第一に考えること。

・すべてのこどもについて、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され保護されること。

・すべてのこどもについて、その年齢および発達の程度に応じて、意見を表明する機会および多様な社会的活動に参画する機会が確保されること。

 

などが定められている。子どものウェルビーイングを大切にすることが理念となっているのだ。

折しも、ロシアによるウクライナ侵攻(ウクライナ戦争)では、子どもたちの学びの場や生活が突如として奪われる現実を目の当たりにした。遠い外国のことと見ていてよいだろうか。

日本だって、国際情勢次第では、いつどのような危機に直面するかわからない。

子どもの基本的な人権やウェルビーイングを保障していく民主的な社会をつくっていけるかどうかは、いまの私たちと将来世代にかかっている。教育基本法第1条では「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」を育てることが教育の目的とされている。

この意味を改めて考えたい。

国内に目を向けると、新型コロナの影響で、子どもたちは我慢を続けている。修学旅行などが中止となった学校もあるし、受験生には相当な緊張を強いている。もはやマスク姿がデフォルトになっていて、「取るのが恥ずかしい」と述べる児童生徒も少なくない。大人は飲み会などで適度に息抜きしているかもしれないが、多くの地域では給食時間も黙食が続いている。

先日公表された調査によると、不登校の小中学生は急増し、2021年度は過去最多の約24万人に上る。これを含む長期欠席の児童生徒は40万人を超えている。年間30日以上欠席した者のみ長期欠席者としているので、不登校傾向の子も含めると、もっと大勢になる。学校だけが学ぶ場ではなく、ほかにも選択肢はあるかもしれないが、学校のこれまでのやり方や空間ではつらい、楽しくないという子どももとても多いという現実を示している。

 

こうしてみると、子どもたちのウェルビーイングを高められているかと言われると、さまざまな問題、課題があるのではないか。

 

教職員のウェルビーイングはどうか?

子どもたちのウェルビーイングを大切にしていくには、家庭の役割はもちろんのこと、社会や地域も重要だが、やはり子どもたちが長い時間を過ごす、学校について、ここでは注目したい。教職員は、子どもたちの異変や問題に気づきやすい数少ない大人だ。

ところが、多くの学校はとても多忙で、先生たちに余裕がない。

22年3月、4月に行った教職員へのアンケート調査したところ、8割以上の教職員が「仕事に追われて生活のゆとりがない」と答えている。管理職や同僚との関係に悩みを抱えている人も多い。

先生たちからは「みんなパソコンにばかり向き合って仕事していて、職員室で雑談もない」「飲みニケーションもなくなって、ほとんど話したことのない同僚もいる」という話をよく聞く。

児童生徒の問題行動や保護者からのクレームなどは、よく情報共有されているし、複数人のチームで対応する学校がほとんどだろう。しかし、教職員の情報や困り事についての共有はあまりなされていない。

個業化・孤立化しており、職場での支え合いや助け合いが薄くなっている可能性がある。

こうした事態を悪化させているのが教員不足、講師不足だ。

今年度の教員不足は昨年度より深刻化しており、年度後半にかけてさらに増えている。

どこでも聞くのが「産休・育休や病気休暇の代替となる講師が見つからず、困っている」という声だ。教員定数を満たしたところで、世界一忙しい業務量なのに、欠員状態ではなおさら、しんどい状況である。

このような状態で「先生は、子どもたちのつらさやSOSにもっと気づけ、ちゃんとケアしろ」などと周りが言っても、限界はあるだろうし、さらに学校現場を苦しめてしまう。子どもたちのウェルビーイングを大切にしたいなら、まずは教職員のウェルビーイングを高めることが不可欠だ。

 

絆創膏を貼り続けるような教育政策

しかし、日本の教育政策をざっくりレビューするなら、教職員のウェルビーイングには冷淡な姿勢が続いている。

教職員数は大して増えないのに(むしろ少子化により減少する側面もある)、仕事は増えているし、前述のとおり、子どものケアやコロナ対策、ICT活用などもあって、仕事の難易度は上がっている。文科省教育委員会はこの問題にまったく無策であったわけではないが、抜本的な対策を講じることはできていない。

現に「チーム学校」といった掛け声はあるものの、教員以外のスタッフは非常に少なく、協業できる機会は限られる。

ある小学校は、スクールカウンセラーもICT支援員も2週に1度くらいしか来ないので、必要なときにいない。(体制整備や支援の頻度は、自治体ごとにかなり差がある)。

2022年は、7月に教員免許更新制が発展的に解消されたことが大きなニュースの1つであるが、研修履歴の義務化など仕事を増やしてしまっている。教員採用試験の倍率の低下が著しい自治体も少なくない。教職員を応援するという姿勢が行政に弱いことを学生は感じ取っているのではないか。

前述の次期教育振興基本計画の検討素案でも「子供たちのウェルビーイングを高めるためには、教師のウェルビーイングを確保することが必要であり、学校が教師のウェルビーイングを高める場となることが重要である」とは書かれているものの、具体策は乏しい。ついでに述べると、教師のことしか述べておらず、教員以外のスタッフはここでも蚊帳の外である。

むしろ、教育振興基本計画などでは、子どもたちのウェルビーイングのために、学校と教職員のやることを、相変わらず、のんきに増やし続けているようにも見える。

これまでの反省をしない、文科省と一部の識者などの悪い癖ではないか。

例えるなら、大ケガをして出血多量な人がいるのに、教育行政は、ばんそうこうをあちこちに貼って、いちおう対処したふうに見せている。手術や入院(抜本的な対策や環境整備)が必要かもしれないのに。

 

子どもたちのウェルビーイングを保障し、高めるために、根本的に何が足りておらず、重要なのか。

2022年をしっかり振り返って、来年こそは進めたい。

今年も宜しく。

また明日。